紙図面データ化のメリット・方法|設計現場で役立つ保管術から手順、注意点まで解説
図面を探すだけで1日が終わってしまった。そんな経験はありませんか?
紙図面の山から必要な図面を見つけ出す作業、部署をまたいだ図面共有の煩雑さ、ベテラン設計者しか知らない図面の保管場所...。これらは多くの設計現場で日常的に起こっている課題です。
こうした非効率な図面管理は、単なる時間のロスにとどまりません。情報の伝達ミスや設計変更の見落とし、プロジェクトの遅延など、企業の競争力を大きく左右する問題につながります。
図面のデジタル化は、これらの課題を一気に解決する切り札です。瞬時の検索、リアルタイムでの共有、確実なバックアップにより、設計業務の生産性は劇的に向上します。
本記事では、紙図面データ化の手法とメリット、導入時の注意点を解説します。
このような方におすすめの記事です
- 図面の検索に時間を取られている方
- 部署間での図面共有に課題を感じている方
- 図面管理の属人化に悩んでいる方
- 設計業務の効率化を検討している方
-
図面のデジタル化導入を計画している方
目次[非表示]
図面データ化とは?
図面データ化とは、従来から保管してきた紙図面をデジタル形式に変換し、電子的に管理可能な状態にすることを指します。主な手法として、スキャナーを使用した画像データ化や、CADソフトウェアでの再作図によるベクターデータ化などが挙げられます。
従来では設計図面を物理的な紙媒体で保存するのが一般的でした。ところが、このような管理方法では検索作業の煩雑さや保管場所の制約といった問題が常につきまとっていました。
図面をデジタル化することにより、キーワードによる瞬時の検索機能や、クラウドベースでのリアルタイム共有が実現し、作業効率の大幅な改善が期待できます。紙図面データ化の取り組みは単純なデジタル変換を超えて、組織全体のワークフロー最適化を促進する戦略的施策といえます。
紙図面と電子図面の違い
紙媒体による図面管理と電子化された図面では、運用面において大きな相違点が存在します。
メリット |
デメリット |
|
紙図面 |
・現場で直接確認しやすい ・視覚的に把握しやすい |
・保管スペースが必要 ・劣化・紛失のリスクあり |
電子図面 |
・検索やバックアップが容易 ・更新・修正がしやすい ・遠隔での共有が可能 ・時間・コストの効率化 |
・ITスキルや環境整備が必要 ・データ管理ルールが必要 |
手書き図面は昔ながらの方法で作成され、一品もののニュアンスが反映されやすい反面、修正に時間がかかるという特徴があります。
一方で、CADを用いた電子図面はソフトウェア上で正確に作図でき、寸法変更や要素の追加・削除も簡単に行えるため、近年では主流となっています。
紙図面化されている手書き図面でも、スキャンを経てCADデータにコンバートすれば、最終的にCAD図面同様の編集が可能となります。
図面をデータ化するメリット
業務効率の向上と作業時間の短縮
電子化された図面はすぐにプレビューや拡大が可能であり、オンライン上の共同編集機能を活用すればチーム間でのコミュニケーションがスムーズになります。
紙の検索作業から解放されるだけでなく、修正箇所の追跡もしやすくなるため、結果的に作業時間を大幅に短縮できます。これは設計者や現場担当者の負荷を軽減し、付加価値の高い業務に集中しやすくする大きなメリットです。
加えて、過去の類似図面を再利用できるようになるため、図面を一から新たに描き起こす必要がなくなるケースも増え、設計作業全体の効率がさらに向上します。
ただし、単にPDF化するだけでは、かえってファイルが増えて混乱するケースもあるので、図面データの検索・共有・管理までを見据えた運用設計が不可欠です。
保管スペース削減とコストダウン
大量の紙図面を保管するためには、オフィスや倉庫に相応の物理スペースが必要になります。電子化されればハードディスクやクラウドなどにまとめて保存できるため、保管に伴うコストを大幅にカットできるのです。
さらに紙の老朽化による見えにくさや修復コストの問題も発生しにくくなるため、長期的なコストダウンが期待できます。
情報共有・検索性の向上
電子データ化した図面は、社内ネットワークやクラウドを通じて複数の部署や外部協力企業と同時に共有しやすいのが強みです。
キーワードでの検索や図面番号による呼び出しが即座に行えるため、必要な情報を素早く見つけられます。紙とは異なり、色落ちや破損による情報損失も防げるため、品質を保ったまま長期利用や再利用が可能です。
こうした情報活用をスムーズに行うには、検索性やバージョン管理を仕組みとして担保する「図面管理ツール」の導入が有効です。
紙図面をデータ化する方法
スキャナでPDF/TIFF化する
●用途:閲覧・保管・印刷
大判の紙図面は大型スキャナを使用し、PDFやTIFF形式で取り込むのが一般的です。
折り込みされた図面や劣化した図面にはオーバーヘッドスキャナを使うことで、紙を強く押さえつけずにスキャンでき、原本を傷めずに取り込むことができます。
出力する解像度を高く設定しすぎるとデータ容量が大きくなるため、必要な鮮明度とファイル容量のバランスを考慮しましょう。
ベクター変換してCADデータに再構成する
●用途:図面の再利用・編集・設計業務
スキャンした紙図面やPDFを、CADで本格的に編集できる形式(DWGやDXFなど)に変換する方法です。線や文字の位置情報を解析してベクターデータとして再構成することで、寸法の変更や構造の修正、部品の追加・削除といった作業が可能になります。
過去図面を再利用したり、設計のベースとして流用することができるため、「ゼロから図面を描き直す手間を省ける」という大きな利点があります。
ただし、変換精度にはバラつきがあり、元図面の状態によっては微調整が必要です。
PDF対応のCADを利用する
●用途:簡易チェック・注記・寸法追加など
最近のCADソフトには、PDF形式の図面をそのまま読み込んで、背景図として表示したり、上から注記や寸法を追加できる「PDF対応」機能を備えたものがあります。
急ぎの修正や打ち合わせ用のコメント記入といった簡易的な作業には便利ですが、図面の構造を大きく変えたり、パーツを正確に編集するには向いていません。
あくまで「PDF図面を確認・補足するためのツール」であり、本格的な設計編集を行うには、前述のベクター変換によるCADデータ化が必要です。
図面データ化の流れと注意点
1.スキャン前にやるべき準備
図面をデータ化するには、まず用途や図面の状態を確認することが肝心です。
閲覧や保管が目的ならPDF化で十分なことも多く、再編集が必要ならCAD変換(ベクター化)も視野に入れます。古い図面や製本図面には専用スキャナが必要な場合もあるため、目的に応じた方法を選ぶようにしましょう。
2.スキャナで図面を読み取る
スキャナで図面をPDFやTIFFとして読み取り、画像データ化します。とくにPDFは扱いやすく、図面を“探せる・見せられる”状態にする手軽な方法として重宝されます。
200〜300dpi程度の解像度が基本で、図面の細かさによって調整が必要です。
閲覧・共有が目的なら、ここで完了でも問題ありません。
3.CAD編集したいならベクター化を選ぶ
図面を修正・再利用したい場合は、ベクター化が有効です。
自動変換ツールで画像をDWG/DXFに変換できますが、精度にはばらつきがあり、補正作業が必要になることもあるので注意しましょう。再設計が不要な図面は無理にCAD化せず、PDF保管との使い分けが現実的でコスト効率も高くなります。
4.データ整理で“使える図面”に変える
スキャン後の図面は、ルールを決めて整理・保存しないと“探せないデータ”になりがちです。フォルダやファイル名の統一は基本ですが、業務が複雑になると限界もあるでしょう。
そのような場合は、タグ検索や履歴管理ができる「図面管理ツール」がおすすめです。PDFでもCADでも活用しやすくなり、運用負担を大幅に軽減できます。
ファイル形式と拡張子の選び方
PDF・TIFF・JPEGなど
PDFやTIFF、JPEGといった形式は主にラスターデータであり、写真やスキャン画像をそのまま保持する形です。
PDFは閲覧環境が広く普及しており、添付や共有が楽なメリットがあります。TIFFは劣化が少なく高画質で保存でき、JPEGはファイルサイズが抑えやすいものの、圧縮による画質劣化に気を配る必要があります。
CADレイヤー管理に適したDWG・DXF
AutoCADなどの主要なCADソフトで用いられるDWGや、汎用性の高いDXFはベクターデータを保持しており、レイヤー管理や寸法情報を活かした編集が可能です。
大量の図面をレイヤーごとに整理すれば、要素別に変更や検索を効率的に実施できます。また、他社との協同作業でもDXFなどの汎用形式であれば互換性を維持しやすいのが利点です。
図面管理ツールによる一元管理の必要性
紙図面を単純にPDFや画像ファイルに変換しただけでは、ファイルが乱立しがちで管理が煩雑になってしまうので注意が必要です。
そこで図面管理ツールを利用してクラウド上で一元管理を行えば、バージョン管理やアクセス権設定も簡単に実施できます。組織全体で図面を共有・保管する仕組みを確立することで、業務の効率化とセキュリティ向上の両立が可能です。
データ化だけでは不十分!図面管理の落とし穴
バラバラなファイルをどう管理するか
プロジェクトごとに図面をフォルダで分けるなど、分散管理になりがちです。
そのため、件名やコード別に階層を整え、図面番号やバージョンをファイル名に含めるといったルールづくりが有効です。タグやメタデータを活用すれば、図面が増えても検索性を保てます。
ただし、こうしたルールは管理者の知識や徹底度に依存しやすく、担当者交代で崩れることもあるため「図面管理システム」による一元化が有用です。
図面管理は“仕組み化”が重要
データ化しても、管理や共有の負担がなくなるとは限りません。「誰が・どこに・何を持っているか」が見える状態を保つには、運用ではなく仕組みとして管理する必要があります。
無料のストレージや共有フォルダでは初期コストは抑えられますが、バージョン管理や同時編集が不十分で、履歴が追えず古い図面に上書きしてしまうリスクもあります。規模が大きくなるほど混乱しやすいため、早めの専用ツール導入が望まれます。
たとえば設計中に古いデータで生産が進むといったミスも、図面管理システムなら防止可能です。履歴の自動記録やアクセス権管理、タグ検索などにより、図面の所在や更新状況を一目で把握できます。
図面管理ツールで“データ化の効果”を最大化
図面バンク
「図面バンク」は、株式会社New Innovationsが提供するクラウド型図面管理システムです。
このサービスの特長は、コストパフォーマンスの高さです。ユーザー数や図面の保管数に関係なく、2025年6月時点で月額48,000円の定額料金で利用できます(※保存容量によっては利用金額が変動しうるケースがあるので図面が5万枚以上の場合は確認が必要です)
必要最低限のシンプルな機能を備えており、高度な機能は不要だけどコストを抑えたいという方に最適です。また、登録初月は無料で全機能を試せる体験版も提供されています。
CADやPDFなど多様な図面形式に対応し、AIが形状を解析して類似図面を自動で検索します。3Dデータのプレビューや関連資料の紐付けも可能で、図面の再利用性と検索性を大幅に向上させます。
対応ファイル形式 |
PDF、TIFF、JPEG、DXF、DWG、STEPほか |
提供形態 |
クラウド |
料金:月額 48,000円(税別) ※ユーザー数 / 図面保管数:無制限
CADDi DRAWER
「CADDi DRAWER」は、キャディ株式会社が提供するクラウド型図面管理システムです。
製造業を中心に多くの企業で採用されており、図面データをクラウド上で一元管理できます。AIによる高度な検索機能や、シンプルなインターフェースが特徴です。
製造業の重要データである2D図面を自動で解析し、構造化されたデータに変換して蓄積します。高精度の類似図面検索機能を提供し、設計、調達、生産部門のコスト削減と効率性向上を実現します。
蓄積された過去図面をベースにすれば、ゼロから新たに図面を作成する手間を減らすことも可能です。さらに、図面と発注実績を自動で紐付けることで、見積もりや設計判断の根拠を“見える化”を実現します。
対応ファイル形式 |
PDF、PNG、TIFF、3DCAD |
データ提供形態 |
クラウド |
料金:要問い合わせ
データ化後の運用と保管のポイント
クラウド保管と社内サーバーの使い分け
クラウド保管は、場所を選ばずにアクセスできるメリットがありますが、月額の利用料金や外部依存のリスクも考慮する必要があります。
逆に社内サーバー管理は初期導入コストが大きい場合があるものの、自社ネットワーク内で完結できる安心感やカスタマイズ性に強みがあります。
社外とのやり取りが多い場合はクラウドを活用しつつ、機密度が高い図面は社内サーバーで管理するなど、状況に応じた使い分けが有効です。
なお、「図面バンク(エンタープライズ版)」など、図面管理システムの中にはセキュリティ機能が強化された製品も存在します。導入前に暗号化機能やアクセス制御の有無などをしっかり確認しておくと安心です。
原本の取り扱いとアクセス管理の注意点
紙の原本は電子化後も証拠資料として残すケースがあります。特に品質保証や法的根拠が必要な業務では、原本の保管ルールを明確に定めておくことが重要です。
また電子データのアクセス管理については、プロジェクトチーム内でも権限を細分化し、図面の改変やダウンロードが適切なメンバーに限定されるよう設定しておくとセキュリティリスクを最小化できます。
おわりに
図面のデータ化は効率化の第一歩にすぎません。PDF化やCAD変換をしても、適切に整理・管理されていなければ、かえって探しにくくなることもあります。
だからこそ重要なのが、“見つけやすく、活用できる”状態を保つ図面管理の仕組みです。せっかくのデータを活かすためにも、デジタル化とあわせて図面管理体制の見直し・整備をぜひ検討してみてください。